ひっかかりごと。

日常生活で引っかかったことを綴ります。

「安っぽい」夏

もうすぐ夏が来る。(でも私のいる場所はまだ少し寒いけど)

夏が近づくと、なぜかそわそわしてしまう。

私は夏が好きなのである。

夏の好きなところ、それは「安っぽさ」だ。決して「安い」わけじゃなくて、あくまでも「安っぽい」のだ。

たとえば縁日のけばけばしさ、派手な浴衣の色、ガラスのおはじき、かき氷の赤や緑のシロップ、蚊取り線香の匂い・・・そういった「安っぽい」イメージが私に夏を喚起させる。

あと、夏の恋愛も安っぽい。いわゆるひと夏の恋ってやつ。「夏の日の1993」って歌が昔あったけれど、夏の恋は私の中でそのイメージ。「君、いい体してるじゃん!」で始まる欲望むき出しの短い恋。真夏の江ノ島や由比ヶ浜あたりで繰り広げられていそうな・・・。(私自身はそういう経験はないんだけど、昔山田詠美の小説を読んでひと夏の恋に憧れたことがある。題名は忘れたけど、島の男の子と夏休みに恋をする短編だった)

 

 そういう、日本の安っぽい夏がたまらなく恋しく、懐かしい。

私は昔、フランスの「特別な夏」に憧れていた。太陽の季節に特別な思いを寄せるフランス人にとって、短い夏はかけがえのないもの。『タルキニアの子馬』や『海の百合』『青い麦』なんかを読みながら、気だるいフランス人の海辺のバカンスに想いを馳せていた。

そういうリッチな夏も悪くないし素敵なんだけど、やっぱり私は安っぽい夏に心惹かれてしまう。

もう二度とやって来ない、学生時代の「夏休み」もとても懐かしい。まだ見ぬ未来に不安だったけれど、蝉しぐれとうだるような暑さが永遠に続くかのように思えた、永い永い夏休み。なぜか、スピッツの「チェリー」を聴くとあの頃の気分を思い出す。当時流行っていたからだろうか。

ああ、安っぽい夏を味わいたい。正気を失う暑さと馬鹿みたいに涼しい冷房、畳の上でのうたた寝、100円の棒つきアイスキャンディー、やかましい蝉しぐれ、青々とした森、縁日の匂い。そういうありふれた日本の夏を、これほど恋しく思うなんて。

 大切じゃないように見えて大切なものを、どこかに置いてきてしまったような喪失感。別になくたって構いやしないけれど、どうも一抹の寂しさを感じてしまう。

まぶしい太陽と淡い夕闇が同居している夏、高揚感と倦怠感が同時にやってくる夏、長く感じられるのに気がつけばすぐ去ってしまう夏・・・。

夏は、やっぱり私の中で特別な季節なのだ。