ひっかかりごと。

日常生活で引っかかったことを綴ります。

変わっていくこと、大人になること、男であること、女であること。――『ヒメゴト 十九歳の制服』の割と本気なレビュー。

海外にいても日本の本が読めるから、私はkindleを愛用している。kindleのサービスはなかなか粋で、期間限定だけどマンガの一巻(ものによっては二、三巻も)を無料で読むこともできる。だからこれまで、本当にたくさんのマンガの一巻を図々しくも無料で読んできた。

『おやすみプンプン』や『はいからさんが通る』、『ブラックジャックによろしく』とか、有名なマンガはやっぱり予想通り面白かった。

でも、全然知らなかったけれど超面白いマンガを発見できたときの喜びはひとしおだ。『ヒメゴト 十九歳の制服』は、そんな作品のひとつだ。三巻まで無料だったからという理由だけで読んでみたんだけど、有料でも続きが読みたいと思うほど作品にのめりこんでしまった。もちろんすぐ最終巻まで購入してしまった。

まず、三人の19歳のヒロイン(ヒーロー?)がとても魅力的だ(以下ネタばれあり)。

 

由樹は、性別は女なんだけど女の子らしい格好をするのが嫌で、いつも男友達とつるんでいる。でも、心のどこかでは女になることを望んでおり、女装男の佳人に恋をする。

未果子は、清楚ではかなげな完璧な美少女で、大学の人気者。でもその裏で、夜な夜な街に繰り出してはオヤジ達と援助交際をしている。

美男子の佳人(カイトと読むらしい)もまた大学の人気者だけど、夜は憧れている未果子とまったく同じ格好をして街を歩くのが趣味の女装フェチ。お金のために、年上の女たちのヒモをしている。

この作品のキーは、三人の「制服」だ。由樹のそれは、唯一自分が女であることを証明してくれる高校時代の制服。未果子のそれは、憧れていたお嬢様高校の制服。彼女は売春する時に、必ずこの清楚なセーラー服を身にまとう。そしてカイトのそれは、憧れの未果子とまったく同じ完璧な少女になれる洋服。

制服はそんな彼女たちを慰め、そしてまた彼女たちを縛りつけている。制服を脱ぐために彼女たちは悩み葛藤し、奔走する。

私は、「女であるのに女になれない」由樹に特に共感した。私もかつて、スカートをはいて女の子らしくなるのが怖かったからだ。自らの性を引き受け、男性の欲望の対象となることを嫌悪していた。だから「男友達」だと思っていた祥に告白され、彼を憎悪する彼女の気持ちは痛いほどわかった。

由樹とは間逆のベクトルだけど、同じように女性性をこじらせている未果子は、全然私自身とは似ていないがある意味共感できた。欲望にまみれた汚い大人に肉体を差し出し、性行為をしながら見下す彼女の態度はある意味愉快でもあり、また切なくもある(男を軽蔑しながら性行為する様子は、フランソワ・モーリアックの『テレーズ・デスケルゥ』を思い出させた)。

彼女にとってオヤジ達とのセックスは自傷行為であり、自分を認めてくれなかった両親に対するあてつけなのだ。そんな彼女は、一見男前でクールだけど優しさを持った、母性を感じさせる豊満な肉体の由樹に心惹かれる。

カイトについては、美しい女の子への憧れという気持ちは共感できた(異性愛者の男性が女装したくなる気持ちはわからないけれど)。完璧な女の子だと思っていた未果子が、実は虚像に過ぎなかったという空しさを知ったとき、彼は「制服」を文字通り脱ぎ捨てることになる。美しい女の姿でありながら男の肉体を持った彼は、由樹のかけがえのない女友達であり、また彼女の想い人ともなる。このアンバランスさが彼の唯一無二の魅力だと思う。

十九歳という年齢もまた、重要なキーとなる。未果子が少女でいられる最後の年であり、カイトが未果子に変身できるリミットでもある。十九歳は、いわばターニングポイントなのだ。

でも周りの人は無責任に「いつまでも変わらないで」と、変化を否定する言葉を投げかける。私もまた昔の彼氏にそう言われたことがある。そのときは「今の私を好きでいてくれているんだ」と嬉しい反面、「もし私が変わってしまったら、嫌いになってしまうのかな」という不安もあった。

未果子は、女性らしさに芽生えた由樹を嫌悪する。大切な人が変わってしまうことは怖ろしい。男でも女でもない由樹が好きだったのに、彼女がありふれた女の子になってしまうことは未果子にとって受け入れがたい。

けれど、本人は変わることを望んでいる。過去の呪縛から逃れ、変化を受け入れた彼女たちは美しいと思う。私自身もあの頃と変わってしまった。でも、由樹と同じように周りに変化を受け入れてもらい、自分らしく生きている。

ラストも救いがあり、気持ちよく読み終えることができた。また何年か経ったら引っぱり出して読んでみたい作品だ(ジェンダーの研究をしている人にもいいかも)。長くなってしまったけれど、とにかく良い作品にめぐりあえてよかった。