ひっかかりごと。

日常生活で引っかかったことを綴ります。

自分に嘘をつかない格好よさ。アニー・エルノーの『シンプルな情熱』。

私は割と、嘘をすぐについてしまう方だ。といっても大した嘘ではなく、例えば本当は朝ごはんを食べていないのに食べたと言ったり、歩いて来たのにバスで来たと言ったりするような、ごく些細な嘘である。

どうして私は嘘をついてしまうのか考えてみたけれど、それは本当の自分をさらけ出すのが怖いから、無意識に嘘で防御しているせいだと思う。だから私のつく嘘は他人を傷つけるためでなく、あくまで自分を守るためなのだ。

ではなぜ本当の自分を見せるのが怖いかというと、それは私が臆病で傷つきやすい人間だからだ。それに、プライドも高い。そういう諸々の自分を守るため、私はしょうもない嘘をついてしまう。この性格のせいで、SNSもあまり楽しめなかった。屈託なく本当の自分を晒し、友達と楽しめる人が羨ましいものだ(自分に嘘をつかず思ったことを書きたかったから、私はSNSを辞めて匿名のブログを始めたのだ)。

そういえば、以前読んだアニー・エルノーというフランスの作家の『シンプルな情熱』は、完膚なきまでに自分自身を晒し上げていた点で衝撃的だった。この小説にはアニー・エルノー自身が登場し、彼女が外国人の既婚男性に盲目的に恋する姿が描かれている。このシチュエーションだけでもかなり扇情的できわどいのに、彼女は部屋にやってくる男のために買ったものや、男との行為についてなど、かなり細部に渡って描写している。

ここまで暴露しておきながら下品さを感じさせないのは、文体が非常に冷静だからだろう。私は彼女の気風の良さに憧れてしまう。傷つくことや晒し者になることを厭わず、カメラのレンズのような客観的な目で自分を見つめること。それは怖ろしいことに違いない。しかしその先にきっと、自己を解き放った快感があるのだろう。

私はまだまだ、そんな境地じゃない。つまらない嘘で世界から自分を守ってしまう。けれどいつか年を重ねて、みっともなくて愚かな自分さえ自らの一部として認め、解き放つことができればいいと思っている。